第 2 章
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清く正しい本棚の「設計編」
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ver 1.09 (2002.11.19)
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■ 詳細設計の位置付け いよいよ「清く正しい本棚」の製作に入るが、本章では「設計図」を描く。設計図と 聞いて、もし顔をしかめている人がいたらどうか心配しないで頂きたい。ここに書いて ある通りに考えていけば、誰でもカンタンに「設計図」を描くことが出来る。 ここで描く「設計図」とは、「全体図」と「木取り図」の2種類だ。各々についての 詳細は後述するが、その前にこれまでの検討でまだ決定していなかったことがあるので それを検討していこう。 ■ 各棚板の高さ(本棚下部) まだ決定していなかったこととは、各棚板の「1段の高さ」と「段数」である。 当然ながら、この「1段の高さ」もアナタの蔵書の種類に依存する。我々は、本棚の 奥行きを決める時には「必要にして十分」という寸法を採用した。しかし同じ考え方を この「1段の高さ」に対してとるべきではない。ここではむしろ「必要よりも十分」と いう考え方をとるべきであろう。すなわち「1段の高さ」を決める時には、のちのちの ことを考えて1ミリでも高く棚の高さを取るように考える。本というモノは、奥行きが 短い本棚の場合には前面に少々「出っ張る」ことでその本棚に収まってくれるが、棚の 高さが足りない場合には「金輪際」そこには収まってくれないモノだからである。 パソコン関連のA4雑誌の場合、これが収まるのに必要な棚の高さは約28センチで ある。ここでは余裕をみて、A4雑誌用の棚の高さを29センチとする。180センチ 程度の高さの本棚で棚板1枚の厚さが21ミリだとすると、だいたいこのA4棚が4段 までは取れるようだ。残った部分には、文芸書用のA5棚が2段くらいは取れる。合計 6段の本棚なら、まぁ、不足はあるまい。このように、電卓を叩きながら、あれこれと 棚の総段数を計画するのは非常に楽しいものである。なお、この時に使う電卓には是非 とも (TT) 戸田プロダクションの 巨大電卓「デカルク」をお勧めしたい次第だ(^_^)。 閑話休題。 さて、A4版の本がすべて29センチ棚に収まるのか?と言えば実はそうではない。 (例えば)アニメ関連の「美術書」などでは、30センチ以上の高さがないと収まらない 場合がある。と言ってすべての棚で30センチ以上の寸法を取るのは不経済で、全体の 段数が減ることにもなりかねない。段数が減ると、直ちに本棚全体の収納量に影響して くるから要注意である。ここでは、一番下の段だけ思い切って35センチ程度まで延長 して、29センチから延長する「増分」を別のA4段から振り分けるのが良いだろう。 この場合「増分」を捻出した別のA4棚は、当然ながらA5棚に化けるはずだ。 このように考えてくると、我々が作る「上下2段式」本棚の場合、下部本体の棚板に なんとか「6段」までは確保出来そうだ。棚の高さが違うタイプとして以下の2種類が 出来るが、ここでは「Aタイプ」「Bタイプ」と呼んでこれを区別することにしよう。 【Aタイプ】A4棚×4段・A5棚×2段 【Bタイプ】A4棚×3段・A5棚×3段 (一番下段はA4変形対応) どちらのタイプを作るか?は、もちろんアナタの事情(とお好み)で選べば結構だ。 ■ 各棚板の高さ(本棚上部) 本体の上に載せる、上部45センチの棚はどうするか? 板厚も考慮すると、あまり たくさんの棚を設けることは出来そうにない。45センチのちょうど真ん中に1枚だけ 棚板を渡した場合、1段当たりの高さは約19センチとなる。これは文庫本や新書本に 適した寸法だと思われる。 鴨居から上部分にこの棚が2段もあれば、読み終わった(古い)文庫本や新書本などを 投げ込んでおけるので便利だろう。というわけで、上部45センチは2段の棚に化ける ことになる。下部の本体6段と合わせると「全部で8段」ということになり、なかなか 堂々とした本棚となるはずだ。 |
■ 全体図とは? 実を言うと、我々素人がたかが本棚ごときに気張って「設計図」を描く必要は本当は ない。ここで言う「全体図」とは、自分だけが理解の出来るスケッチ程度のものを想定 している。中学校の技術家庭科の授業で習った「三面図」などを想像していると、それ だけで気分が重くなるから、ここはひとつ出来るだけ気楽に行こうではないか(^_^)。 とは言うものの、少なくともこの「全体図」を描くことで、各部寸法はキチンと決定 出来るはずである。この段階で各部寸法を決めることが出来れば、のちの組み立て時に とまどうことがないだろう。 ■ 大切な「ハカマ」の寸法 各部寸法を決める時に大切なことは、材料の厚さと「ハカマ」の寸法である。ハカマ とは、本棚の一番下の部分に取り付ける「上げ底考慮」のことを言う。これがついてる だけで我々が作る本棚もググッと「家具」らしくなるから、是非ともつけておくことを お勧めする。なお、このハカマは単なる飾りでは決してない。実用上から、ホコリ対策 として「必要不可欠な」考慮なのである。 私の作った本棚では、このハカマ寸法を「63ミリ」取ってある。この部分の寸法は 状況に応じて調整することも可能なので、以後の説明では、あくまでも私の本棚を一例 としてご説明していくことにする。 ■ 一覧表(全体図)にしてみよう 前項で考えた1段の高さと段数、これを正確な「一覧表」に落とし込めれば、ここで 描く「全体図」が出来上がることになる。私が考えた一例をご覧頂こう。 |
本棚全体図
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Aタイプ
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Bタイプ
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寸法 |
用途
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寸法 |
用途
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21.0 | 21.0 | |||
8段目 | 193.5 |
B6
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193.5 |
B6
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21.0 | 21.0 | |||
7段目 | 193.5 |
B6
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193.5 |
B6
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21.0 | 21.0 | |||
(上部小計) | 450.0 | 450.0 | ||
21.0 | 21.0 | |||
6段目 | 225.0 |
A5
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225.0 |
A5
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21.0 | 21.0 | |||
5段目 | 225.0 |
A5
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225.0 |
A5
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21.0 | 21.0 | |||
4段目 | 290.0 |
A4
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225.0 |
A5
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21.0 | 21.0 | |||
3段目 | 290.0 |
A4
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290.0 |
A4
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21.0 | 21.0 | |||
2段目 | 290.0 |
A4
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290.0 |
A4
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21.0 | 21.0 | |||
1段目 | 290.0 |
A4
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355.0 |
A4大
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21.0 | 21.0 | |||
ハカマ (*) | 63.0 | 63.0 | ||
(下部小計) | 1,820.0 | 1,820.0 | ||
全体合計(全高) | 2,270.0 | 2,270.0 |
この一覧表に出てくる数字の単位は、すべて「ミリ」だと思って欲しい。これまでの ご説明では意識的に「センチ」という単位も使って筆を進めて来たが、木工の世界では すべての長さは「ミリ」で語られることが非常に多いので、今後は私もこの「ミリ」で お話を進めていくことにする。 棚の高さのバリエーションとして、前述した「Aタイプ」と「Bタイプ」の2種類を 一覧表に落とし込んでみた。寸法の違いは、1段目と4段目の違いである。しかし下部 小計と全体合計(全高)では、どちらのタイプもピッタリと同じ寸法になることが判って もらえると思う。また、鴨居から上部分の「上部」は、両タイプともに共通である。 なお、合板の厚さに別のものを使う場合でも、下部小計は1820ミリとなるように 調整すべきである。これは、後述する材料の「木取り」からくる制限だ。また、ハカマ 部分はある程度「少なめ」に設定することも可能だから、この部分を全体寸法の「しわ 寄せ」として考えるのも良いだろう。 ■ これで「全体図」は完成だ 各部寸法を細部にわたってここまで押さえておけば、これで「全体図」は完成したと 言っても良いだろう。次は、いよいよ「木取り図」の描き方の詳細を述べる。 |
■ サブロク合板のお話 本棚を自作する時、材料となる合板を規格モノの「帯材」でまかなおうとすると大変 である。まず材料にムダが出る。値段もハネ上がる。しかも規格モノの帯材は、どんな 店でもその在庫に限りがあるから、必要分の確保も難しくなるだろう。そういうわけで 我々は、すべての材料を大きな合板から切り出すことにしなければならない。 ここに「サブロク合板」と呼ばれる合板がある。「サブロク」とは3尺×6尺のこと であり、1尺とは約300ミリであるから、計算すれば約900ミリ×1800ミリの 大きさとなる。要するに「畳1枚」の大きさの合板だと思えばよろしい。この大きさは 全国共通の規格であって、正確には、910ミリ×1820ミリの寸法で出回っている ことが多いようだ(一部に、900ミリ×1800ミリのサブロクも存在する)。我々は このサブロク合板を手に入れて、必要な材料を切り出すことにしよう。 で、この「畳1枚」のサブロク合板をどういう具合に切るのか?を示す図が、ここで 描く「木取り図」だというわけである。あとで述べるが、実はこの「木取り図」は後日 他人様に「見せる」図面となる。よって、一定のルールと「コツ」に従って描くことが 大切である。 ■ これが「木取り図」だ! 早速、お手本を示すことにする。下の図をご覧頂きたい。 |
【木取り図A】(1枚) 1,820 +-------------------------------------------------------------+ | | 210 | | +-------------------------------------------------------------+ | | 210 | | +-------------------------------------------------------------+ | | 210 | | +-------------------------------------------------------------+ | | 210 | | |-------------------------------------------------------------| +-------------------------------------------------------------+ |
【木取り図B】(2枚) 600 450 450 +-------------------+--------------+--------------+-----------+ | | | | | 210 | | | | | +-------------------+--------------+----+---------+---------+-+ | | | | | 210 | | | | | +-------------------+-------------------+-------------------+-+ | | | | | 210 | | | | | +-------------------+-------------------+-------------------+-+ | | | | | 210 | | | | | |-------------------|-------------------|-------------------|-| +-------------------+-------------------+-------------------+-+ (63*) 600 600 600 |
ケント紙(なければコピー用紙)を使用し、サブロク合板の 1/10 の長方形を2つだけ 描く。大きさはもちろん、91ミリ×182ミリだ。同じものを描くのはしんどいので ひとつの長方形を正確に描いたら、あとは千枚通しやコンパスの針で四隅を突き刺して 写し取っても結構である。 前述した通り、長さの単位は「ミリ」で書こう。60センチだとか、6センチ5ミリ だとか、そういう表記は木工の世界ではおかしいのである。「450」と書けばそれは 45センチのことだと、見る人が見れば必ず判ってくれるものなのである。 上記お手本では「木取り図A」と「木取り図B」の2種類があるが、これはもちろん 私が作ってきた本棚の必要材料によるものだ。すなわち「Aが1枚」と「Bが2枚」の 合計3枚で、私が作る本棚2本が出来上がる計算となる。「オレは1本しか作らねぇ」 とおっしゃる方は、今回はAとB1枚づつで良い。そしてAの方で余る「側板」2枚は 大切に保管しておくのである。こうすれば、例えば5年後に同じ本棚が欲しくなったと しても、その時点で「木取り図B」1枚に相当する材料だけ用意すれば、まったく同じ 本棚を増設することが可能だろう。 ■ すべての材料は「長手方向」から切り出す サブロク合板から材料を切り出す時は、その材料を切り出す「方向」に留意すべきで ある。本棚の側板や棚板の場合、すべての材料はサブロク合板の「長手方向」から切り 出すのが「鉄則」だ。これは材料の「目」が「長手方向」に走っているからで、もしも これを勘違いすると切り出した材料の強度が極端に落ちる場合もある。 今回製作する本棚は棚板の幅がちょうど600ミリなので、普通に考えればお手本の ような切り出し方になるはずである。しかし仮にこの幅が900ミリだったらアナタは どうするか? ついウッカリ、サブロク合板のヨコの910ミリを活かしたくなるのが 人情かも知れないが、これだけは絶対に止めた方が良い。この場合でも「長手方向」の タテ1820ミリを半分にして、そこから2枚の900ミリを切り出すべきだろう。 ■「のこしろ」について もうひとつ、木取り図を描く時に注意すべきことは、「のこしろ」と呼ばれる寸法を 計算に入れることである。例えばここに500ミリの長さの板があったとして、これを ちょうど真ん中で切れば1片の長さは半分の250ミリになりそうだが、実際にはそう いうわけにはいかない。ノコギリが板を切って進む時に「ノコギリの刃の厚さ+α」が 必要となるからだ。この「ノコギリの刃の厚さ+α」が「のこしろ」であって、もしも これを失念していると、図面には描けたがその大きさの材料をどうしても切り出せない ……ということにもなりかねない(^_^;)。 通常、1本の「のこしろ」は2〜3ミリ程度が一般的だと思うが、我々が木取り図を 描く場合には十分余裕を見ておくことが望ましい。むしろ、材料の切り出しによっては 特定部分に「のこしろ」の累積をしわ寄せして、その部分は最初から「余っただけ」の 寸法で良しとする設計手法もある。 例えば 上記の木取り図で「(63*)」と示した部分があるが、ここが例のハカマ部分 である。サブロク合板の幅は910ミリだから、ここを63ミリも取ることは実際には 難しいかも知れぬ。よって、木取り図上ではこのハカマ寸法は「空欄」とする。上から 順番に210ミリ幅材料を4枚取って、このハカマは余っただけの寸法で構いませんと いう設計にするわけだ。 ■ これで詳細設計は完了だ!(^_^) 以上で、清く正しい本棚のための「詳細設計」が終わり、必要な図面もほぼ揃ったと 言えるだろう。日曜大工ではここが最初のヤマ場であり、よほどの「好き者」でないと 図面を描くことはなかなか億劫なものだろう。しかしながら、ここまで描いてしまえば あとの作業はいよいよ「現実味」を帯びてくるから、是非とも頑張って頂きたい。 次章では、建材店やDIY店で必要な材料を調達して、これを裁断してもらうために 清く正しい建具屋に行く。乞うご期待(^_^)。 |